株式会社「マリアベル」の社員、エドヴィン・ドノヴァンはこれまでの人生を順風満帆に過ごしてきた。
中流の家に生まれ、小学生のころはベースボール。中学のころはバスケットをし、
高校、大学はアメリカン・フットボールのプレイヤーだった。
成績も中の上で、友達も割りといた。少しさえない所もあったが、彼女もできた。1年で別れたが。
人並みに笑い、悲しみ、泣き、怒り、苦労し、人生を楽しんでいた。
そんな彼もマリアベルに就職し、念願の一人暮らしも2年前に始まった。30階のマンションの28階が彼の城だ。

そして今、彼はものすごいピンチに陥っていた。
今日は、朝一でとても重要な会議がある。それは一週間前から知っていた。
しかし、寝坊をしてしまったのだ。
エドヴィンはよれよれのスーツを着、朝食も取らずに部屋を飛び出した。もちろん鍵は閉めた。
―――会議まで後30分。飛ばせば25分。ギリギリで着けるはずだ!
そう思い、エレベーターのスイッチを押したが、エレベーターは今23階の住人を乗せ、一階をめざして現在19階まで降りている。
もう片方のエレベーターに至っては27階の住人が乗り、現在26階だ。
エドヴィンは絶叫したいのをこらえ、足踏みをしつつエレベーターが1階につくのを待った。
しかし、事有るごとにエレベーターが止まり、そしてまた1階へとゆっくり進む。
―――もう待っていたら間に合わない。階段を下りても4,5分はかかる。
エドヴィンは嫌な汗が背筋をつたって落ちていくのがわかり、怒られるのを想像して喉がカラカラになるのを感じた。
しかしなぜかエドヴィンは絶望的な表情どころか、「じゃあ仕方ないな」と言う顔をしていた。
そして次の瞬間。エドヴィンは28階から飛び降りた。

…マンションの前のアスファルトにヒビが入っている。
そしてそのヒビを入れた本人は涼しげな顔で唖然とした顔をしているサラリーマンに向かって
「おはようございます。お互い会社勤めは大変ですな」
とさわやかな笑顔で言った。サラリーマンはやっとの思いで「全くですな」と言えた。

エドヴィンはバイクの免許と車の免許を持っているが、鍵を家に忘れてきてしまっていた。
「しまったな。もうとりに戻ってる時間は無いし。走るしかないか。」
そうつぶやくと、エドヴィンは凄まじい速さで駅に向かって走った。
あまりの速さに風が巻き起こり、新聞を立ち読みしているおじいさんの新聞と帽子を吹き飛ばしてしまった。
昔からエドヴィンは足には自信があり、これのおかげで小学生の頃は盗塁王の座をほしいままにしていた。
バスを追い抜き、朝から爆走しているハーレーも追い抜き、リズミカルに呼吸をしながらエドヴィンは走った。
「これなら何とか間に合いそうだ」
と走りながらつぶやいた瞬間。エドヴィンは吹っ飛んでいた。車にはねられたのだ。
そしてその車は、エドヴィンを撥ね飛ばした後、さらにエドヴィンめがけて突っ込んできた。
そしてエドヴィンを壁と車でプレスした瞬間、車は爆発炎上した。
スーツはボロボロになったが傷は一つも無かった。エドヴィンはため息を吐きつつ、車が突っ込んできた方向を見た。
そこには、全身で「俺は悪党だ」とアピールしているような黒服の男と、
頭部に角が生え、爬虫類めいた顔をした明らかに人間ではない化け物が居た。

「君たち今日は勘弁してくれないかな。僕は今日とても忙しいんだ。」
とエドヴィンは怪しげな集団に諭すように言った。
しかし怪しげな集団は何もいわず、無言で銃やナイフや棍棒を構えた。
エドヴィンは「やれやれ」とため息をつくと、素手で黒服の集団に突っ込んでいった。
黒服がナイフを心臓めがけて突き出す。エドヴィンはそれを難なくかわし、手刀を相手の首に叩き込む、
棍棒を持った黒服が上段から棍棒を振り下ろす。それを左腕で受け止め、右手で顔面を殴りつける。
その後も襲い掛かってくる黒服を作業をこなすように叩きのめしていく。
銃弾が彼のこめかみや足に当たるが、顔をしかめただけで傷一つ無く、黒服を投げ飛ばして銃を持った黒服にぶつける。
静観していた化け物が口を開く
「下がっていろ、俺が殺す」
そう口を開いた刹那、化け物はエドヴィンに負けず劣らずのスピードで突進する。
エドヴィンは倒れていた黒服を化け物に投げつけ化け物の動きを止めた。
化け物が一瞬だけ止まった瞬間に、エドヴィンは顔面に一発、ボディに三発拳を叩き込んだ。
化け物も負けじと殴り返す。しかし大して聞いていないのか、意に介さない様子でエドヴィンも反撃する。
化け物はエドヴィンをつかむと、壁に投げつけ、突進する。頭の角で突くつもりだ。
しかし、エドヴィンは突進してくる化け物をあっさりと押さえ、角をつかみ力を込め、角をへし折った。
「角を折ってしまってゴメンよ。でも君が悪いんだからな」
とエドヴィンは言いながら、渾身の力で化け物をぶん殴った。化け物の肋骨が粉々になった音がした。
化け物は力なくうなだれた瞬間大爆発をした。近くの廃ビルが大きな音を立てて崩壊した。
エドヴィンはその瓦礫の下に埋もれていたが、何事も無い顔で瓦礫の下から這い出ると、
元気な黒服を捕まえてこういった
「悪いけどおたくのボスと話がしたい。案内してくれるかな?」



エドヴィンは会議に間に合った。黒服たちのボスにあい、アジトで一暴れした後、ヘリコプターで運んでもらい、
会社のまどから突っ込んだ。スーツも新調してもらったし、割った窓も弁償してもらうつもりだ。
「僕の父さんがあなた達と闘ってたのは知っているけど、僕はあなた達と闘うつもりはないし、父さんの後を継ぐ気も無いんだ。
だからもうほっといてくれないかな?」
とボスには言ったが、明日も襲ってくるだろう。そして明日もやられるだろう。
エドヴィンにはバズーカも、そして毒も効かない。なぜなら、彼の父はスーパーマンで、
エドヴィンもその力を継いでいるからだ。

会議も終わり、新品のスーツになりエドヴィンは上機嫌だった。
―――多少のトラブルもあったけど、それも全てうまくやり過ごしたし、これからもうまくやり過ごせる。かな?
と思いながらコーヒーを一口飲んだ。
「アチッ!!」

舌を火傷してしまった。