曇り空。雷が鳴り始めてきた。
ジョージの故郷からそう遠くない山の中に一軒の山小屋がある。
初めて見つけたときは、かろうじて家の形を保っているといった感じだったが、
3日前やっと雨漏りの心配をする必要も無くなった。
小屋の持ち主が帰ってきた。
ポットに入れてあるコーヒーをカップに淹れ、テーブルに置く。
窓を見ると、雨が降り始めていた。
男は本棚から1冊の本を取り出し、椅子に座る。
簡素なテーブル。椅子は男の物と、来客用の物の二つしかなかった。

近くの町で買ってきたフィッシュサンドを頬張りながら、男は本を開く。
本にタイトルは書いてなかった。作者名も表記されていない。
日記だ。
日記には男の今までの出来事が書き記されていた。
そして、数枚のメモ用紙が日記には挟まれていた。
メモ用紙には、やはり日記が記されていた。
フィッシュサンドを食べ終えた男は、ペンを取り、メモに書かれている文章を、日記帳に書き写し始めた。


5月16日
 首都近辺の、討伐軍が隠れ潜んである森にたどり着いた私達は、機械討伐軍の指揮官の下へ赴いた。
右腕が義手の、厳しい顔つきをした男だった。
私達はそれぞれ違う部隊に割り振られた。
部隊長は右足が義足だった。
部隊員は私を含めた15名。男性もいれば女性もいる。
共通点は、みんなどこか死線を彷徨った事を証明するような目つきだったことだ。
しかし、私に色々と教えてくれたジェイクというハンターは、少しどこか違っていた。
どう表現したらいいものか。死者のような目つきではなく、生きていると言えばいいのだろうか。
なぜ討伐軍に加わったのか尋ねたところ、師匠に連れてこられたからだそうだ。
ジェイクが言うには、当初1部隊に100名ほど割り振られていたのだが、ほとんどが戦死したらしい。


5月17日
 今日を生き延びることができた。16日の機械の夜襲の際に1人死んでしまった。
拠点を変え、初めて就いた任務は、偵察に出ている機械を殲滅することだった。
私の部隊は幸か不幸か、偵察隊を発見。殲滅に成功。
隊長が負傷したが、かすり傷程度で済んだ。
その後、軍議の結果10部隊をそれぞれ合併させ、5部隊に減らすことが決定したらしい。
結果、私が所属している部隊は45名になった。
夕食前、2人にあった。二人とも同じ部隊になったらしく、何かの打ち合わせをしていた。
夕食時、ジェイクが1人の女性を紹介してくれた。名前をミフネといい、昔知り合ったそうだ。
凛とした雰囲気の女性で、鋭いが、どこかジェイクと同じような眼をしていた。


5月18日
 すごいものを見た。1:00〜2;30の間、夜襲に備えての警備の任務に付いていた時の事だ。
私はミフネと組んでいた。彼女は修行の為にこの討伐軍に加わっているらしい。
その見た目のためか、どこか近寄りがたい女性だと思っていたが、気のせいの様だ。
彼女はとても穏やかで、気さくな女性だった。
浮かべた笑みは、どこか、私の妻に似ている気がした。

 その文章を書き写したとき、男は苦笑していた。
 立てかけてある写真に視線を送る。
 「気のせいだったな」
 男は呟いた。また、ペンを走らせ始めた。

任務ももう少しで交替の時間だと言う頃、ミフネは突然銃を取り出し、森に向かって発砲した。
奥で変な音がした。ミフネは森の奥に走り出す。私も後を付いて行った。
ミフネが足を止めた。そこには偵察の機械がメイン・エンジンを撃ち抜かれて壊れていた。
その後、見張りは30分延長された。
交替の時間が来た。別れ際にミフネに何の気配も物音もしなかったのに、なぜわかったのかと尋ねた。
一言。「修行の成果です」との事だ。


5月19日
 指揮官が全部隊に集合をかけた。明日、いよいよ首都に大攻勢をかけるようだ。
去るか、残るか、今日1日考えるようにと、司令官は言い残した。
今日1日、完全自由行動だった。明日、5月20日の午後2時に集合し、3時に作戦を開始するらしい。
私はこの日記を、近くの町の宿にて書き記してある。
ジェイクとミフネもこの町に居るが、二人とも宿に着くなり。部屋で眠り続けている。
どうやら二人とも去るつもりはないようだ。
夜。夕食を買いに宿を出る。
2人に出会う。3日ほどしかたっていないのに、とても懐かしく感じた。
改めて尋ねてきた。「心臓は諦めるか?」と。

 男は筆を止め、メモ帳に記されていた、その日の残りの文章をペンで塗りつぶした。
 そして、別の文章を日記帳に書き始めた。

たしかに、今思えば、馬鹿な考えだったと思っている。
しかし、当時の私はまだ生きたがっていたのだ。たとえ仮初の命だったとしても、生き延びたかったのだ。
そして、自分は死なないと思っていたようだ。
私はその後、今までの出来事を記した紙を、宿屋の主人に渡した。
生きて帰ることができたら、続きを書こう。そう思いながら。




日記にはさんであった紙は、もうない。すべて日記帳に書き写した。
男は、冷めた残りのコーヒーを飲み干すと、再びペンを持ち、日記を書き記した。


5月20日
※前述
 ここからの2日間は、日記を書く暇がなかったので、私、ジョージ・イーストウッドの思い出を元に書き記すこととなる。

 「だれに説明しているのだろうな」
  男、ジョージは、呟いた。