―――いらっしゃい。何を飲む?
「ウイスキー。後何かつまみを。」
―――あいよ。外はまだ降ってるのかい?
「ああ、おかげで冷えていけねえ。酒でも飲まなけりゃ風邪を引いちまうよ。」
―――ここにやってくる根なし草どもはみんな同じことを言いやがる。お前さんもそいつらと同じクチだな。
「へっ、その根なし草どもに感謝しな。そいつらのおかげでこの店やってけるんだからな」
―――ははは!違えねぇ!でもな若けぇの。そいつらの半分はツケを払わねえうちに死んじまうんだよ。こちとらただ酒飲ましてるようなもんだ。
「安心しな。俺はそんな雑魚どもとは一味違うぜ。こうみえても村じゃあちょっとは知れた銃の名手よ。」
―――ほぉ、町じゃあどのくらい有名な銃の名手なのかな。
「まあ確かに今は知名度は低いがよ、近いうちにお前さんは俺の評判は嫌でも耳に入るぜ。「マスケットのビリー」の名をな。」
―――で、そのマスケットのビリーさんは本日の御支払いはどうなさるので?
「喜びな。1ヶ月後に倍にして返すぜ」
―――うれしいね。これでツケを倍にして返す奴が20を超えたよ。
「ケッ、言ってな。ところでこの店にはジュークボックスがあるんだな。」
―――ああ、半世紀もハンター続けてる妖怪ジジイが5年分のツケをコイツに変身させたのさ。
「なかなか渋いじゃねえか。ロカビリーあるか?俺の大いなる門出に一曲流してくれよ」
―――悪いがこれだけはツケがきかねえんだ。一曲聴きたきゃ金払いな。




―――いらっしゃい。何を飲む?
「コーヒーあるか?」
―――残念だな。ここにあるのはそこらのカフェより安くて上等なものしかないよ。
「じゃあそれの一番いい奴をくれ。」
―――あいよ。あんた。ハンターか?
「ああ。もうこの稼業初めて11年だな。」
―――ずいぶん長いことやってるな。調子はどうだい。
「最近は実入りが悪いな。職を変えようにも働き口がない。食っていくにはこれしかないな。」
―――悪いがうちは看板娘は募集しているが男は間に合ってるんだ。
「それは残念。気が変わったらいつでも言ってくれ。ところでこの店にはジュークボックスがあるんだな。」
―――ああ、バリエーションも抱負だぜ。景気付けに一曲聴くか?
「そうだな。静かな奴を頼む」
―――おっと、済まないがこれは別料金でな。
「そうか。じゃあこれがコーヒー代と一曲の代金だ。」
―――久々にハンターでツケにしない奴を見たぜ。
「借りを作るのが苦手なんでね。」
―――気に入ったぜ。つまみともう一杯サービスしてやるよ。
「素直に払えばこういうおまけが来るからな」



―――いらっしゃい。なんでえ、あんたか。
「客に向かってなんだとは何だ」
―――で、何を飲む?
「バーボン。後フィッシュサンド。タルタルソースは無しでいい。」
―――あんたの弟子はタルタルが少なめのフィッシュサンドでテキーラを飲むぜ。
「あのガキ俺の元を卒業してからようやく最近ケツの青さが取れたな。」
―――弟子の大活躍を聞いてどんな心境だい、妖怪爺さん。
「俺がまだ若いころはあの程度では評判にすらならなかったよ。守銭奴マスター」
―――は!久々に来てずいぶん悪態をつくじゃねえか。人が恋しくなったか?
「ぬかせごうつくばり。明日大仕事に取り掛かるから俺が発掘したアイツで一曲聴きたくなったんだよ。」
―――あんなもので5年分チャラにしやがって。また最近ツケが溜まってきてるぜ。
「今度は戦闘機もって来てやるから10年分まけろ」
―――戦艦くれたらこの店をやるぜ。で、何を聴くんだ?
「知ってるくせに聞くんじゃねえ。いつものだ。」
―――ジジイの分際でラブソングが好きとはな。色気付くのが半世紀遅かったんじゃねぇの?
「言ってろ。そして黙ってろ。歌は静かに聴くもんだ。」
―――晴れていても土砂降りでも、か。女がいなきゃきまらねえな。



―――すまねえが今日は夜からだ。
「いえ、俺は客じゃあないです。」
―――?じゃあ何のようだ?
「ええ、「マスケットのビリー」を知っていますか?」
―――ああ、あの坊やか。覚えているよ。あんたアイツの知り合いか?さっさとツケを払ってくれるよう頼んでくれよ。
「ビリーさんは亡くなりました。」
―――…いつだ?
「3日前です。機械に襲われていた村を救おうと一人で立ち向かって。その時に…」
―――そうか。また、ツケを踏み倒されたか。
「いえ、ビリーさんは死ぬ間際にあなたにこれを届けてほしいと。」
―――金。か。
「「確かに返した」そう伝えてくれと言われました。」
―――ああ、確かに。何だ。飲み代より多く入っているじゃねえか。しかたねえ。ロカビリーを一曲サービスしてやるか。
「聴いてもよろしいですか?」
―――ああ。あいつの分も聴いてやってくれ。


―――いらっしゃい。久しぶりだな。いつもの奴かい?



「いや…、Tボーンステーキとバーボンをくれ。」


プラスティックソウル 第一部 完