機械に支配される前の首都に続く道から少し外れた所に工場がある。道に沿って歩けば嫌でも目に付く。
その工場は大昔、まだ戦争があったころここは兵器を作る工場だった。
しかし統一後、工場は一度閉鎖し、それから暫く後日用品や車の部品などを作る工場として使われるようになった。
工場が再び使われるようになったとき、工場内にはそこにあるはずだった兵器は一つもなかった。
戦争が終わった後、人知れず誰かが全てを破壊した。
工場内に隠し部屋があり、そこに全て隠している。
工場内の物資を全て前線に持っていく途中に全て敵の襲撃に会い奪われた。
神隠しだ。
世紀の大泥棒の仕業だ。
様々な説が流れたが、結局答えは見つからず、数年後には一部の兵器愛好家以外の人物の頭からその話は消去されていた。
それから100年後。再び戦争が起き、消えた兵器の行方を追う者がいた。


「くそ、また故障だ!このポンコツめ!!」
曇り空の下。一人の老人があちこち塗装が剥げ落ちている大型バイクを拳でたたいて毒づいている。
褐色の肌で、白髪が逆立っている。ラフな服装で頭にはゴーグルをつけていた。
老人の名はボブ=エイクロイド。半世紀ハンターをやっている。
ボブは悪態をつきながらバイクに積んだ荷物から修理道具を取り出しエンジンをいじり始める。
エンジンの点検をし終え、バイクをゆっくり吹かしはじめたり急に吹かしたりを繰り返す。
数回それを繰り返すとバイクは騒々しい音を出し、黒い煙を吐き出した。
「そろそろコイツも御釈迦だな」
そう思いながらボブはバイクにまたがりギアをニュートラルからロウにチェンジした。
スピードを出すとまた故障するかもしれないのでゆっくりと走っているとポツポツと雨が降り出した。
「これから一仕事だってのに今日はとことんついてねえな」
今年70を迎えるが、初対面の人はボブを見て年齢を当てたことがない。大抵年齢より10以上若い年齢を言う
それほどボブの体は鍛えこんであり、引き締まっていた。45だといっても信じるだろう。
しかし鍛えているとはいってももはや70歳。体力は以前より衰えている。
「もう前線には出ることはないだろう」
そう思ったボブは一線を退き、今は支配されていない乗り物や、大昔に使われていた武器などをサルベージし、それを高値で売りつける仕事をしていた。
さすがに昔ほど命を賭けた仕事ではないにしろ、この仕事も危険に変わりないがそれでもボブは危機を乗り越え
かなりの業績を残した。

雨が本降りになってきたと同時に今日の「仕事」の工場が見えた。
森の奥にひっそりと建っていたわけではない。たどり着くまでの道のりが困難なわけではない。
機械に支配される前の首都に続く道から少し外れた所に建っているので迷うこともない。
しかし今まで多くのハンター達がこの工場に入り、そして消息を絶った。
そこは昔兵器が作られ、全て忽然と消え、様々な噂が流れていた工場だ。
昔は兵器が忽然と消えていたが、今はその消えた兵器を探している者とその行方を追った者が消えていった。
昔のように様々な説が流れた。中には「あの工場は天国へ繋がっている」と言う噂も流れ、
自殺志願者もハンターと一緒に工場へと消えていった。

雷も鳴り出したと同時にボブは工場へたどり着いていた。
ボブがバイクを点検していると、後ろに人の気配がした。女性だった。しかも美人の。
黒い長髪で少しツリ目。長身で、遠めに見れば男にも見えるだろう。
ライフルを背負っているのでボブは同業者である事に気付いた。
「なんでえ、先客か。お前さんもこの工場に用があるのか?」
バイクから荷物を降ろしながら女性に話しかけた。
「いえ、寄り道してたら急に雨に降られたので雨宿りを」
「お前さんこの工場がどんないわくがついてるか知らねえらしいな。ここはハンターが何人も行方不明になっている工場だ。」
「…はじめて知りました。でも、なんでおじいさんはそんないわくつきの工場に?」
「仕事だ。この工場で消えた兵器を探す」
「なんでこの工場で何人も消えてるんでしょうね。」
「さあ。中に機械が何体かうろついて人を襲っているのかもな。」
二人が話している間にも雨は降り続けている。止む気配はない。
沈黙が続いたが、すぐに破られた。
「私を用心棒に雇いませんか?」
ボブは返事をせずにじっと彼女を見た。
線は細いが佇まいは油断なく、銃はかなり使い込まれていた。
「…わしはボブと言う。お前さんの名前は?」
「レイ。レイ=ミフネです」
二人は工場へ入っていた。

工場の中は広くこざっぱりとしていた。
「この工場は兵器を作っていたのでは?」
工場に入ったレイは尋ねた
「それは戦争があった頃だ。戦争後は日用品を作っていたらしい。しかしそれまでに作られた兵器は全てが消えてなくなっていた」
武装したボブは拳銃を持ちながら答えた。
途端にドアが閉まった。勝手に。
二人はドアをあけようとしたが開かない。ドアは分厚い鋼鉄でできており、二人の手持ちの銃では穴も開きそうにない。
二人は閉じ込められてしまったのだ。
「…これがいわくつきの工場の正体か。」
ため息混じりに呟いた。
「工場全体が機械なんですね。」
ライフルを抜きながらレイが応じた。
「命令系統のコンピュータールームがどこかにあるはずです。それを壊しましょう」
「そうだな」
二人は工場の中を歩き回った。途中白骨化した死体やミイラ化した死体、死に立てから腐り初めや自殺体など、様々な死体に遭遇したが、
機械に襲われることもなく1階、2階を探索できた。
状況が変わったのは3階。最上階だ。
室内運搬車が全速で二人を追いかけ、バーナーが火を噴き、カッターが襲い掛かる。
1,2回と比べ、死体は轢死体、焼死体、斬殺体などに変わっていた。
二人は襲い掛かってくるもの全てを何とか撃退してきた。
ボブも老いているとはいえ半世紀も闘ってきた男だ。銃の射撃には自信がある。
「この稼業初めて長くなるが、お前さんのような凄腕は初めてだ」
「ありがとうございます」
そういいながらレイは襲い掛かってくる運搬車のタイヤを撃ち抜き、とどめにエンジンを撃ち抜いた。
狙いをつけるのに一瞬すらかからぬ速さだ。

二人が血臭が漂わぬ所を見つけ、そこで休むことにした。
「すまないなあ。わしのせいでお前さんに迷惑をかけてしまって」
一息ついた後不意にボブはレイに詫びを入れた
「急にですね。」
レイは銃に弾を込めながら笑って言った。
「構いませんよ。いい修行になりますし、ここで死ぬならその程度だった。と言うことですから」
「…お前さん。はじめ会った時はもうもっとクールな女かと思ったが、結構骨太な性格をしているな」
「はい。先日も同業者に言われました」
休憩を終え、二人は部屋を出た。
「今日はとことんついてないと思ったが、雨のおかげでお前さんに会えたし、ついていたのかもな」
とボブは笑いながら言った。しかし、ボブはその発言をすぐに撤回することとなる。
車が襲い掛かってきたのだ。今までのよりもでかい。
「やはり今日はとことんついていない」
そう思いながらも二人は逃げ出した。
二人が走っていると突き当たりのT字路にたどり着いた。
「二手に分かれましょう」
走りながらレイはそう提案した。もしかしたらどちらを追いかけているか迷ううちに逃げれるかもしれないと踏んだのだ。
しかしコンピューターは優秀だった。
二人が分かれるのを見て車は瞬時に判断し、レイを追いかけた。
年寄りはいつでも殺せると判断したのだろう。
しかし機械はこの選択を誤ってしまった。車から逃れたボブは。一目散に一階へ降りていった。しかしそれは逃走ではなく闘争のためである。
近くの部屋に隠れたレイは、その部屋にあったインテリ全てをバリケードにし、身構えた。
鍵をかけようにも「ワールド」に支配された工場は全てがオートロックで、工場全てがレイを殺そうとしているのだ。
鍵がかかるわけがない。ドアがきしみ始めた。ドアの向こうで車が押しているのだ
「ここまでか」
レイが半ばあきらめかかった次の瞬間。向こうで轟音が響いた。
轟音が響いたと思った瞬間。ドアが消滅していた。入り口のドアより小さいとはいえ、鋼鉄製のドアだ。
「無事か!?」
ボブの声だった。扉の向こうではぜぇぜぇと息を切らしたボブがバズーカ砲を肩に担いでいた。

「地価にに全て隠してあったんですか?」
一階に降りながらまだ息を切らしているボブに尋ねた。
「ああ、2階、3階に、隠し、扉的な物が、見つか、らなかったから、な。」
途切れ途切れなのは一階からバズーカ砲を抱え全速力で3階まで駆け上ってきたからである。
「ちく、しょう。昔は、こんな、ことで、息切れ、しなかった、のに。」
一階に降り、少し落ち着いたのかボブは呼吸が整っていた。
「ここだ」
そういってボブが来たのは一階の男子トイレだった。
手洗い場の横に入り口があった。タイルの一つが入り口のスイッチだったらしい。
「改装中も工場の設備以外はそんなに手を加えなかったらしいな。改装工事に横着しなければすぐに見つかっただろうに」
「でも見つからなかったおかげで私たちが助かったんだから感謝ですね」
「全くだ」
ボブは大笑いしながら地下へ潜った。
地下室はまさに兵器庫だった。
拳銃からミサイルランチャーまで大量に、そして整理されながら保管されていた。
「すごい」
レイは思わず呟いた。
「中でも一番すごいのがコイツだ。」
そういってボブは布で覆われていたものをポンとたたき、布をはずした。
規格外の大きさの鉄塊がそこにあった。戦車だ。
M1エイブラムス。1980年頃アメリカで作られた戦車だ。
しかしこの工場がまだ兵器工場だったころにはかつて西暦が使われていたころの国は全てなくなっていたので
恐らく昔の設計図か何かを見て製作されたと思われる。
しかし、性能はオリジナルより遥かに優れているだろう。


主砲で入り口を破壊し、二人は工場から抜け出した。
戦車の中には弾薬が大量にある。
「この戦車を売れば大もうけですね」
レイはボブと共に戦車に乗りながら言った。
「ああ、そのことだけどな。この戦車は売るつもりはないんだ。」
「へ?何故です?」
「お前さんと一緒に工場で暴れまわっているうちにな、もう一回暴れたいと思ってしまってな。気が変わったんだ。」
とボブは笑いながら言った。その笑顔がとても若々しかった。
「わしは今から首都へ行き、大暴れするつもりなんだが。お前さんはどうする?」
「私も目的地は首都なんですよ。」
レイは答えた。
「報酬代わりにこの戦車に首都まで乗せてもらってもよろしいですか?」
とレイが行った後、少しの間をおいてボブは大笑いした
「アレだけ死ぬような目にあって報酬が「首都までつれてけ」だけとはな!!お前さん、欲がないのもいいが若いんだから少しは欲張れよ」
こうして、ボブとレイは首都までの道のりをあらゆる車より確実に安全な乗り物でたどり着いたのだ。

その後、旧首都での人類対機械の戦争が勃発し、戦場には戦車で大暴れするハンターがいた。
そのハンターは褐色で、髪は白く逆立って、ゴーグルがトレードマークの陽気な老人だった。
戦争の顛末は、また後の機会に。