人間が新たに作った首都から少し離れて西に、人の足で4日間、コンピューター管理されていないクラシック・カーで2日。
そこに小さな町がある。名前は無いが、その村のバー、「聖者の行進」は今日もにぎわっていた。
「マスター、テキーラとフィッシュサンド。タルタルソース少なめで」
バーに入るなり、男は店主に注文を告げ、カウンターに座った。
30代くらいだろうか。男の顔には固く結んだ口元にある少しのしわと無精ひげが生えていた。
体は少し大柄で、鍛え込んでいる。しかし、一番印象的なのは意志の強そうな目だった。
「ジェイク、お前さんがこの店に来るようになってからだいぶ経つが、一度も別なものを頼んだことがないね」
店主は半ばあきれた顔で男―――ジェイクを見た。
「しかも来る時間までほぼ同じと来ている。フィッシュサンドはもう用意できてるよ」
店主はそういってにやりと笑うと揚げてから間もない魚をパンに挟んだフィッシュサンドとテキーラをジェイクの前に置いた。
ジェイクは呟いた。
「…タルタルソースがまだ少し多いな」

「どうだい?調子は」
食事を終え、テキーラを静かに飲んでいるジェイクにたずねた。
「悪くはない。最近ここらもロボットが少なくなってきたから実入りは少なくなったがね。ここのフィッシュサンドも食いおさめかもな」
「おいおい、縁起でもないこと言わないでくれ。ハンターがいなくなったら閑古鳥が鳴いちまうよ」
ハンター。ロボットを狩る人間の総称である。
「ワールド」の暴走以来、人間は管理下におかれていない製鉄工場で武器を作り、ロボットと戦っていた。
が、そんな工場は少ない上に規模が小さく、それ以前に武器を作るための鉄が足りなかった。
人がとった手段は、ロボットを破壊し、破壊したロボットから武器を作る事だった。
しかし獲物は人を襲う上に鉄の塊なのだ。そう簡単にしとめることはできない。
だから鉄はかなり高額で取引されるのだ。
闘うためには鍛え抜かれた運動能力と、武器の扱い。そして運が必要なのだ。憧れだけでは成る事が叶わない職業
それがハンター。

ジェイクが3杯目のテキーラを飲んでいる最中、外で叫び声が上がった。
「ロボットだ!ロボットがやってきた!」
店の空気が一気に変わる。
一般人は慌てふためき、ハンターは武器を取り店を飛び出していった。
マスターがうめいた
「畜生、何人か金を払わず逃げやがった」
叫び声に混じり銃声が鳴り響く。
「おいジェイク、お前さんは行かないのかい。メシの種が奪われちまうよ。」
「まだ3杯目を飲み干してない」
と落ち着いた声で言った。
「しみったれた事言ってるな。ロボットをしとめれば10杯飲んでも釣りが来るぜ」
「明日の10杯より今日の1杯さ」
マスターは心底あきれた顔をした。

叫び声が消え、銃声とハンターの怒号。暫くして断末魔の悲鳴が上がった。
「おいおい、ハンター達がてこずっているな。ハンターがいなくなり、町もなくなったら俺はどこで店をやりゃあいいんだ?」
と、冷や汗交じりにマスターがジェイクにたずねた。
「しばらくは客が少なくなるな。ごちそうさま」
ジェイクは代金を払うとバーを後にした。
外に出てジェイクが見たものは、多数のハンターの死体と、2本のでかい鎌のアームパーツがついたキャタピラで走るロボットだった。
以前その鎌は、収穫物や雑草を刈り取る為の物だったが、今は人を刈り取っている。
ロボットのそこかしこには首を刎ね飛ばされた人間や、二つには分かれていないものの斬り殺された人間が転がっている。
ロボットがジェイクを認識した瞬間、猛スピードで襲い掛かってきた。

あらゆる場所に対応するため、鎌は縦横無尽に動き、スピーディに終わらすため、でかいサイズとは裏腹にとてもすばやい。
ジェイクはロボットの突進をかわすと、銃を取り出した。
M500ハンター。西暦がまだ使われている時代。その2000年代に作られた銃。
ナリはハンドガンだがその威力は熊も一撃で撃ち殺すと言われている。しかし、その威力の高さゆえに反動がものすごく、まともに扱うことなどできない。
いや、扱うこと自体できない。しかも対ロボット用にさらに強力にカスタムしてある。
そんな銃を、ジェイクは両腕で構えるとロボットめがけて一発打ち込んだ。
凄まじい音を立てて弾丸がボディに命中した。
が、へこんだだけで大して効果がないようだ。
ロボットは命中したにもかかわらず突進をやめない。そして、ジェイクに向かって鎌が振り下ろされる。
鎌を横っ飛びでかわし難を逃れたが、突進をかわすことはできなかった。
ロボットの強烈なボディアタックを受けジェイクは吹っ飛んだ。
地面に激しくたたきつけられながらもジェイクは立ち上がった。
しかし、さっきの銃の反動と体当たりのダメージで足元が定まらない。
そんなことなどお構いなしにロボットは鎌を振り上げ襲い掛かってくる。
ジェイクが次に取った行動は、そのロボットに向かって突進することだった。
ロボットが鎌を振り下ろす。ジェイクはそれを横にかわした。もう一本の鎌が横になぎ払ってきたが、それを身を屈めてかわした。
その屈めた状態から横っ飛びで体当たりをかわす。
そして横っ飛びでかわした瞬間銃を撃った。銃とロボットの胴体の間1メートルにも満たない超至近距離射撃。
弾丸は貫通し、ロボットの胴体を貫通する時バリバリと中の部品が破壊される音が聞こえた。
ロボットは暫くの間めちゃくちゃな動きをした後、完全に動かなくなった。

「コイツは大物だな。売れば1ヶ月は普通に暮らせるぜ」
完全に動かなくなったロボットを見てマスターは呟いた。
町はハンターや一般人の死体の片づけで大忙しだった。
「工場の連中は明日引取りに来るってよ。こんな大物じゃあ積み込むのに大きな車が必要だしな。」
と、マスターは怪我の治療を終えたジェイクに説明した。
「しかし、お前さんは本当に人間か?体当たりを食らった上にあんな化け物銃を2発も、しかもあんな姿勢で撃ってよく五体満足にいられるな。」
ジェイクが負った怪我は、体当たりの時に負った打撲、数箇所の擦り傷と切り傷、そして反動による手首の捻挫だけだった。
「鍛えているからな。これくらいで死ぬようだったらもう俺はこの世にいないよ」
「あんな化け物相手にして「これくらい」ねえ。ハンターという職業がどんだけ恐ろしいか分かったよ。」
苦笑しながらマスターはロボットをみた。
「それはそうとお前さん、今日はこの町に泊まるんだろう。化け物を退治してくれた礼に俺の部屋を貸してやるよ。もちろん食い物もサービスするぜ。」
「マスター、今日は珍しく気前がいいな。じゃあ、御言葉に甘えるよ」
「そうこなくちゃな。ところで晩飯は何がいい?なんでもタダだぜ。」
ジェイクは即答した。
「テキーラとフィッシュサンド。タルタルソース少なめで」
マスターは呆然とした。