男の旅は一人旅。それが相場と決まってる。人とつるむのはゴメンだね。俺は一匹狼、それが性に会ってる。



――――畜生!!クソッタレ!!ファック!!シット!!ジーザス!!アスホール!!
俺は心の中で思いつく限りの悪態を並べ、そしてそれを心の中で思い切り叫んだ。
本当に叫ぼうとしてもゼイゼイ息を切らしているので迫力はない、それに、叫んだら連中に聞こえちまう。
――――クソ食らえ!!マザーファッカー!!サノバビッチ!!
…全く、意味は同じなのに何でこう悪態の種類は多いものかな。


事の始まりは2時間ほど前だ。俺はやけに前時代的な西部の雰囲気漂う町にぶらりとやってきた。
そこには車は無く馬が居て、テンガロンハットをかぶったシェリフが居る。極め付けにカントリー・ミュージックだ。
俺は無性に一杯やりたくなり、そこらの酒場でテキーラを飲もうとしたんだ。
それがこの鬼ごっこの始まりさ。
その酒場にはごろつきは居なかったが、ある意味ごろつきより厄介な連中が居やがった。
実は俺はちょっとしたギルドに入っていてな、そのギルドには、まあ、派閥みたいなものがあるんだ。
そのギルドはメンバーである事を示すためにバッジをつけることを義務付けられてるんだが、
その派閥によって色が違うんだ。
…もうここまで言ったら今の状況が薄々と分かるだろ?
俺はクールかつ鮮やかな青のバッジをつけている。しかし酒場に居た「奴ら」はとてもクソッタレな「赤」バッジだ。
そう、1人だけならまだいい、だけど「奴」ではなく「奴ら」なんだ。
しかも2、3人なんてモンじゃねえ。桁が違うんだ。20人なんだ。
あっという間に見つかっちまった。しかもご丁寧に
「見ろ!青バッジだ!」
と大声で叫びやがった。
そして俺はテキーラどころか水すら呑めなくなっちまった。


…そして今だ。
俺は自慢の俊足を生かして何とかまくことに成功した。
もちろん町からは逃げることもできない。入り口は2つあり、どちらも張ってやがる。
一般人にまぎれて逃げるのは無理だ。さっき写真を取られたから手配書が回っている可能性もある。
俺は今ゼイゼイ息をしながらでかいタルの陰に隠れて休憩しつつ、どうやって連中から逃げ切るかを考えた。そして考えた末、
ほぼ不可能という結論に至った。
俺はスーパーマンのような力の持ち主でもないし、ソンシやコウメイ見たいに兵法なんて練れないし、ヨーダやルークみたいなフォースなんて使えない。
俺にあるのは並より少し上の逃げ足の速さとギルドに入った時禁煙した肺。それだけだ。
不可能という結論に至ったが、だからといって白旗を上げるつもりは無ぇ。ハラ決めて逃げ切ってやる!
20対1の不利な勝負。俺はその状況に少し酔っていた。
そしてその酔いは一瞬でさめた。
見つかっちまった!!

幸い相手は1人。俺は相手が大声をあげる前にすでに走り出していた。
何も考えずに走り出したのが間違いだった。大通りに出ちまった。

すぐに仲間に見つかっちまった。だけどまだ囲まれていない。
手薄な方向へ突っ込んでいき、包囲網を突破した。
そして一般人に紛れ込み、連中が通り過ぎるのをじっと待った。
だが、くそ!!本日のMVPのクソッタレ餓鬼が連中に
「お兄ちゃん、ここに青バッジの人がいるよ。」
と鼻水たらした小汚ねえ顔でニタニタ笑いながらほざきやがった!!
畜生!畜生!!畜生!!!だからガキは嫌いなんだ!
ガキをぶん殴ってやりたかったが、すでに手遅れ、ガキは走って逃げていきやがった。
赤バッジの奴に腕をつかまれた。
ゲームオーバーだ。




俺を捕まえた奴は赤バッジから青バッジへとバッジを変え、赤バッジの奴らに別れを告げどこかに行っちまった。
赤バッジの奴らはうらやましそうにそいつを見送り、青バッジから赤バッジになった俺をにやけながら見ていた。
リーダー格の男がニヤつきながら言った
「運が無かったな若いの。たまたま作戦会議中の酒場に入ってくるとはな」
――――あんたらも残念だったな。青バッジになり損ねて、
「まあ、赤は赤で結構楽しめらぁな。それより良い逃げっぷりだったな、歓迎も兼ねて一杯おごってやるぜ」
――――早速楽しいことが起こって何よりだ。悪いが一刻も早くテキーラが飲みたいな。




俺の所属しているギルドの名前?「世界鬼ごっこギルド」さ。
赤バッジが鬼で青バッジが逃亡者。
色々細かいルールがあるんだが、説明は面倒くさいから自分たちで勝手に想像してくれ。


そして俺はまた一人で旅に出た。青の奴らを探すため、俺が青になるために。
人とつるむのはゴメンだ。俺は一匹狼。それが性に会ってる。
…赤のバッジも結構イカスな。