男は本当に私にそっくりだった。いや、私そのものだ。
もう一人の「私」が口を開いた。
「あんたは誰だ?ここはあんたの部屋か?何で俺はあんたの部屋で寝ていたんだ?」
私は何も言えなかった。何も言えなかったというより、何もできなかった。元いた部屋を抜け出す決心をし、訳の分からないメモと鍵を見つけ、扉の先は通路だと思っていた。しかし実際は、同じような部屋で同じように眠っていたもう一人の私がいたのだから。これは想像もつかなかった。私はすっかり困惑していた。
私が何も言わないでいると、もう一人の私は怪しがりながらも、
「悪いが洗面所を貸してくれ、顔を洗ってすっきりすれば思い出せるだろうし」
といい、フラフラと洗面所のほうへ歩いていった。
私はこの後の彼のリアクションが手に取るように分かった。そしてその推理は外れることは無かった。
驚きと疑問だ。
私は私より青ざめた顔をした「私」と今置かれている状況について議論を交わした。
何でこんな所にいるのか?何で記憶が何も無いのか?何で同じ顔をしているのか?
3つ目の疑問には「双子か?」と言う仮定がついた。しかし、双子かどうかも定かではないため、仮定はあくまで仮定である。
前2つの疑問は結局何も進展はしなかった。それもそうだ。お互い記憶は無いのだから。
そして長い沈黙が続いた。

ふと私は思いついたように洗面所へ向かい、うがい用のコップを調べてみた。
やはりそこには鍵と、そしてメモ用紙があった。
メモ用紙にはこうかかれていた。

「年齢は20歳」と。

これは私、いや、私達のことなのだろうか。はたまた謎の暗号か?
鍵も手に入ったし、私は次の部屋に行ってみることにした。もう一人の私もどうやらついてくるようだ。
私たちは扉を開けた。

どうやら、私たちが双子と言う可能性はだいぶ薄れてきたようだ。
そこには全く同じ部屋で、全く同じ格好をした「私」がいた。

その後、3人目の「私」は同じリアクションをし、私たちと同じような議論をした後私は、さっきと同じように洗面所へと向かい、これもまたさっきと同じ場所で、同じような鍵とメモ用紙を見つけ、同じように鍵を開けた。


・・・もうこれで7人目である。
一つの部屋に、同じ顔をした私が7人もいる。
鍵も7つ。メモも7つ。ちなみにメモの内容は
「古文が得意」
「好きな歌はオーティス・レディングの「ドック・オブ・ザ・ベイ」だ」
「1人暮らしだ」
「車の免許を持っている」
「ブロッコリーが苦手だ」である。

ここまできて、解けた疑問が2つある。
1つは私たちは双子ではないこと。そしてもう一つはこのメモ用紙が暗号でもなんでもなく、「私」の情報だと言うことだ。

そして、7人集まり、議論を交わしているうちに、ベッドに持たれ、何気なくベッドの下を探っていた「私」が恐ろしいものを発見した。

それは弾丸が6発入った拳銃だった。

私たちは戦慄した。実際の拳銃を見るのは――記憶をなくす前は分からないが――
初めてだったからだ。
拳銃を持った男が拳銃を持ったまま、うつむいたまま黙りこんだ。そしておもむろに起き上がると、拳銃を「私」に向けて撃った。
「私」が頭から血を流し倒れる。即死だった。
私たちが状況が飲み込めないまま、拳銃を持った「私」は死体となった「私」を見下ろしていた。
私たちは黙っていたが、言いたいことは一緒だった。
「何で殺した!?」である。

無言の私たちを見て拳銃を持った「私」は、尋ねてもいない疑問に答えた。
「何で殺した?と言いたいんだろう。何で殺したか?それは拳銃があったからだ。
何で拳銃があった?それは殺しあうためだろう。ここを作った奴も何の目的かは分からないがそうさせるために拳銃をおいたんだろう。そして生き残った「自分」が本物として元の世界に戻れるんだろう。これはサバイバルだ!生き残りをかけた殺し合いなんだ!」
拳銃を持った「私」は何かが「切れて」いた。私は「私」を止めようと拳銃を奪おうとした、しかし、逆に、拳銃のグリップで殴られ、気を失ってしまった。




私が目覚め、次に目に映ったのは、5人の「私」の死体と、うつろな顔で立ちつくしている拳銃を持った「私」だった。
拳銃を持った私がつぶやくような声で言った
「目覚めているんだろう?起きろよ」と。
私は半ば死を覚悟して起きた。しかし、拳銃を持った「私」は何をするわけでもなくこう言った
「この先にも多分自分がいるんだろう。それも何百人もの自分がな。俺はもう5人も自分を殺してしまった。何百人いる中のたった5人さ。それだけで俺はもう疲れてしまった。」と。
拳銃を持った「私」は力なく言った。
「俺は元いた自分の部屋に戻る。生き残るとか元の世界なんて、どうでもよくなっちまった。」
私は「私」のやったことを非難しなかった。いや、できなかった。
なぜなら彼が狂気に走る前に言った「生き残りをかけた殺し合い」という考えは、私も同じことを考えたからだ。だが何故狂気に走らなかった?それは拳銃を持っていなかったからである。彼、即ち「私」はたまたまベッドにもたれ、偶然拳銃を手にしてしまった。例えそれが「私」でなくとも、別の「私」が同じことをしたであろう。
「お前はまだ先に進むのか?」
「私」が尋ねた。
私は無言でうなづいた。
「私」はそうか。と力なく笑い、私に拳銃を差し出した。弾丸は一発のみ。
「もっていきな。もし自分を殺すようなことになっても一人位ならまだ立ち直れるかもしれないしな」
私は拳銃を受け取った。もう一人の自分の手の暖かさが伝わってくる。

拳銃を持っていた「私」は、前の部屋の鍵を持っていった。
この扉はよく見ると、片方のみで開け閉めする扉だ。向こう側から鍵をかけたら、こちら側から入ることは二度とできない。
即ち、私はもう自分の部屋には戻れない。ということだ。
しかし、私は戻る気はさらさら無かった。私は5人自分を殺した私と顔を見合わせ、そして別れを告げた。最後に「私」が言った。
「しっかりやれよ俺」。と。
その言葉を聴き、私は残り一発の弾丸が入った拳銃を持ち、血なまぐさい部屋を出て行った。


どうやら一つの部屋に付き一丁拳銃がおいてあるようだ。
前の部屋で、一発の銃声が鳴り響いた。
                                      
                                        続く