殺風景な部屋で私は目覚めた。この部屋には洗面所とベッドと、そして扉があった。

目覚めた時間は分からない。7時か?2時か?それとも4時か。この部屋には時計が無かった。
そして今が朝か夜か昼かも分からない。この部屋には窓も無かった。
そして今日の日付も分からない。
5月か?7月か?それとも11月か?この部屋にはカレンダーすらない。
あるのは洗面所とトイレがある部屋とベッド、そして扉だ。

そもそも私が何でこんな所にいるのかも分からない。ここは私の家ではない。
酒でも飲んだか?友達のうちに泊まったのか?何も思い出せない。
とりあえず、私は顔を洗うことにした。そうすれば何か思い出せるかもしれない。
しかし、洗面所で私は鏡を見、驚いた。
鏡には短く刈り込んだ黒髪、少し低めの鼻、そして鏡を見て驚き見開いた目が映っていた。
この男は誰だ?これはガラスか?いや、鏡だ。これは私の顔か??
いや、そもそも



私は――――誰だ???



私は必死に思い出そうとした。
私の名前、生年月日、家族の名前、住所、自宅の電話番号、携帯の電話番号、生まれ、年齢、趣味、好きな音楽、愛読書、得意なスポーツ、友人、好きなブランド。何も思い出せない。
今分かっているのは自分の性別――男だ――という事だけだ。
私は途方にくれるより先に恐怖した。
ここはどこだ?なぜ記憶が無いのか?何でこんな窓すらない部屋で私は眠っていたのだ?いや、眠っていたと言うより眠らされて監禁されているのではないか?
ならば何故監禁されているのか?
私は部屋の中をぐるぐると回りながら考えた。考えた結果。私はここを出る決心をした。
洗面所やトイレに行く部屋以外にも一つ扉がある。この扉の先には何があるのか?出口があるかもしれない。何かの通路に出るかもしれない。確かなのは今の状況が良くも悪くも変化すると言うことだ。
そう思い決心し、私はドアノブに手をかけた。が、開かない。鍵がかかっているようだ。
私の持っている精一杯の勇気を振り絞って開けようと決心したのに開かない。
私は鍵を探した。探している最中に、やはり監禁されているのか?と思ったが、その心配は杞憂だったようだ。すぐに鍵が見つかった。洗面所のうがい用のコップの中だ。
コップの中には鍵と、そして1枚のメモ用紙が入っていた。私はメモ用紙に書かれている文章を読んだ。そこにはこう書かれていた。
「ペットの名前はブラウン」と。
これが何を意味するかは分からない。私のことかも知れなし、何かの暗号かもしれない。何故そんなものが鍵と一緒に入っているのか。
私はそのメモをポケットにしまいこみ、扉へと向かった。

鍵はこれでよかったようだ。扉には何かが仕掛けているわけではなく、すんなりと開いた。私は深呼吸をし、心の準備をした。そして
扉を、開けた。


扉の先の光景は記憶を失った私でも見覚えのある光景だった。
なぜなら、そこはカレンダーも窓も時計も無い。
あるのは洗面所とトイレがある部屋とベッド、そして扉。
つまり、私がいた部屋と寸分の違いも無く同じ部屋だった。
唯一つ違いがあった。ベッドの掛け布団が膨らんでいる。つまり、誰かが寝ているのだ。
そして、その誰かが、起きた。
その誰かは、男だった。そしてそれは私が見覚えのある男だった。
短く刈り込んだ黒髪、少し低めの鼻。
男は私を見て驚いていたが、私はそれ以上に驚いていた。

男は、私だった
 
続く